おひとりさまが「尊厳死」の意思を伝える手段

~死に際に自分の意思を尊重してもらう~

尊厳死」ということばをご存じでしょうか?
人間としての尊厳を保って死に臨むという意味です。

たとえば、末期がんなどもはや治療による回復が見込めない場合に、延命治療をせず、痛みや苦しみを和らげる緩和医療のみ施す。
自然に任せて死期を迎えるというものです。

インフォームド・コンセントの一種であり、医師が説明し、患者が同意する必要があります。

私の親が、いわゆる看取りをしてくれる病院に転院したときのことです。
親族である私が医師から「胃瘻で延命しますか?」「(病院が)看取りをするということでよいですか?」などと聞かれました。
本人が正常な意思疎通できなくなった以上、医師の医療行為は親族の意思表示にしたがって行うしかなくなるのです。

この場合、親族が判断するので本人の意向と異なることもありえます。
たとえば、本人は自然のまま最期を迎えたいと思っていても、親の年金をあてにしている子が延命治療を求めるといったケースです。

また、本人が意思表示できるうちに延命治療はいらないと医者に口頭で伝えるだけでは不十分なケースもあります。
あとになって親族から、必要な治療をしてくれないのは殺人行為ではないかと訴えられる可能性があるからです。

そこで、延命治療を希望するか否かを、あらかじめ本人が文書に残しておく手段が用意されています。

1 尊厳死宣言公正証書

一つは「尊厳死宣言公正証書」です。

まず、自分は自らの考えにより尊厳死を希望する、延命措置を差し控えてほしい、中止してほしいといった旨の宣言書を作成します。
次に、公証人がこれを聴取する事実実験をしてその結果を公正証書にし、公証役場に保管するというものです。

医師が「尊厳死宣言公正証書」にしたがう義務はありませんが、かなり高い確率で尊重してくれるというデータがあります。
手数料は11,750円くらいになります。

文面には次のようなことを明記します。

①延命措置を拒絶すること

②緩和医療を希望すること

③親族の同意があること

④医師の刑事上の責任などの免責を求めること

⑤正常な意思表示ができる状態で作成したこと

2 リビング・ウイル

もう一つは日本尊厳死協会の「リビング・ウイル」です。
もしものときには自分は延命措置を望まないという包括的な事前指示書です。

協会の会員になると、会員証とリビング・ウイルの原本証明付コピーが送付されます。
これを医療機関や医師に提示すれば尊厳死を希望する意思が受け入れられやすくなるという仕組みです。
意思疎通ができなくなってからでも健康保険証などといっしょに保管しておくと見つけてもらうことで意思が伝わることになります。

正会員の年会費は2,000円で、毎年納入することで尊厳死希望の意思が継続されているとみなされます。
ほかに終身会員の会費は70,000円(一括払い)となっています。
会員の特典として、リビング・ウイルに協力してくれる医師の情報提供や、終末期医療にかかる電話相談などがあります。

とくにおひとりさまは、死期を迎えたとき、なかなか親族に頼みにくいケースが少なくないでしょう。
延命措置をするかどうか医師が判断できなくなる事態は避けたいところです。
家族がいても本人の意思が伝わるとは限らないことは先ほど申しあげたとおりです。

「尊厳死宣言公正証書」や「リビング・ウイル」などを活用することを検討してみてはいかがでしょうか。

自分の意思を尊重してもらうためにも、周りの人たちを困らせないようにするためにも、検討する価値があるからです。