進化のために撤退する勇気をもつ

~逃げるは恥だが役に立つ~

企業が存続が厳しくなれば、たいていの経営者は何とか挽回を図ろうと努力します。
あっさりあきらめてしまっては従業員や取引先などに迷惑をかけてしまうでしょう。
とはいえ、いくらもがいても持ち直すことが難しいケースもあります。
そういう場合は、いかに傷を浅くして撤退できるかを考えるほうが得策であることもあります。

「金ヶ崎の戦い」(1570年)は大河ドラマや歴史小説などでよく描かれます。

織田信長が朝倉義景を攻めたところ、同盟関係にあった浅井長政が裏切ったという情報が入ります。
このままでは挟み撃ちになり危険です。
信長は木下藤吉郎(豊臣秀吉)と徳川家康を殿(しんがり)にしていったん撤退を決めます。

信長軍は被害を最小限にとどめ、態勢を立て直して3年後に一乗谷城の戦いで朝倉氏を滅ぼすことに成功します。

「撤退」は「逃げる」、「敗北」というよくないメージがあります。

旧日本軍は「転進」と言い換えていました。
旧陸軍幹部による造語だそうです。
「ガダルカナル島の戦い」で初めて使われ、以降戦況が不利になって終戦を迎えるまで「転進」という名の「撤退」を繰り返します。
「大本営発表」という言葉が権力者による信用できない情報と揶揄されるようになった一因でもあります。

敗戦に至るまで「撤退」しなかったために、日本の被害は甚大なものとなりました。

私は33年間会社勤めをしましたが、役職定年のタイミングで退職を選びました。

朝から晩までやりたくない仕事であってもやらなければならない。
毎日へとへとで自分の時間も取れない。
役職定年後にやりがいをもって仕事に励む自分の姿が想像できない。

そう言うと嫌になって逃げたと思われるかもしれませんが、違います。
私は、これまでの会社人生を「撤退」して、起業という新たな道へ進むことを選んだのです。
自分の能力が発揮でき、より多くの方々の役に立ちたい。
まだまだ人として成長し続けたいという気持ちもあります。

テレビドラマになった「逃げるは恥だが役に立つ」という言葉は、もともとハンガリーのことわざです。
逃げる行為は一見恥ずかしいことのように思われますが、結果としてメリットを得られるというのです。

たとえば、自分の能力が生かせる場所へ移る。
自分らしさを発揮できる環境に身をおく。
うまくいくように方向転換する。

別の世界へ身を移すことで今より良くなる場合があります。
今自分が置かれている状況にしがみついても明るい未来につながるとは限らないのです。

「逃げるが勝ち」も似たような意味のことわざです。
立ち向かえば負けてしまうが逃げてしまえば負けることはない。
あるいは、いったん逃げても最終的に勝てばよい。
そのような意味です。

話は変わりますが、生物は環境変化に対応するために「進化」すると言われています。
「進化」とは、従来の体を捨てて、つまり「撤退」して、変化する環境に適応できる新たな体を手に入れることではないでしょうか。
体は自分が生き続けていくために必要な場所と置き換えてもよいでしょう。

帝国データバンクによると、2022年の休廃業・解散件数は5万3,426件で減少傾向にあります。
一方、倒産件数は6,799件となり、3年ぶりに増加しました。
前年度比800件以上で14年ぶりの大幅増です。

「廃業」もあまりよくないイメージをもつ方が多いのではないでしょうか。
何とかしようとがんばることは決して否定しません。
挽回の余地があるのなら簡単にあきらめてはならないでしょう。

しかし、どうしようもなくなって倒産してしまったら自分のみならず多くのステークホルダーに迷惑をかけかねません。

帝国データバンクは次のように分析しています。
「財務内容やキャッシュなどある程度の経営余力を残している企業で、事業再建を含め将来を悲観し、自主的に会社を休業・廃業、あるいは解散を行う「あきらめ休廃業」の機運が高まっている可能性がある。」

変化する環境に対応することが難しければ、余力のあるうちに「撤退」をする道もあります
この場合の「撤退」は「逃げる」という意味ではありません。
経営者自身が新天地でいっそうの活躍するための「進化」の過程なのです。

新たな事業を模索する。
勤務者という別の道で能力発揮する。
ボランティアなどの形で社会貢献できる道を選ぶ。

明るい未来があるかもしれません。

どのような未来を描きたいか。
経営者自身が考え、さまざまな選択肢を検討する。

多くの経営者の方々が、どのような道を進んでも、自分らしさを失わず、生きがいややりがいをもち続けられることを願っています。