「同族企業」の経営を成功させるには

~メリットを強みにしてデメリットを克服~

「同族企業」、「同族経営」、「同族所有」、「家族経営」、「ファミリー企業」といった言葉があります。いずれも法律上の定義があるわけではありません。一般には創業家が株式や出資の大半をもって経営に関与し、実質的な支配権をもっている企業を「同族企業」といいます。

一方、法人税法では、上位3株主の持ち株比率をあわせて50 %を超える会社を「同族会社」と定義しています。国税庁の「会社標本調査」によると、日本の企業の96%以上が「同族会社」です。資本金1億円以下の中小企業では9割を超え、1億円超の企業でも約半数を占めています。

①「同族企業」のメリット

意思決定が迅速に行える

株主が少数で親族が大半なので、意思疎通を図ることが容易です。組織の結束力が高くなり、経営理念や経営方針なども浸透しやすくなります。

経営が安定する

買収されるリスクが少ないので中長期的な視野で経営を行なうことができ、思い切った経営戦略を取りやすくなります。

事業承継がスムーズに行える

親族に事業承継させることで経営陣の移行を円滑にできる可能性があります。また、後継者育成を早期の段階から計画的に実施できます。

経営者のモチベーションが高まり、資産の増加にもつながる

経営者自身が大株主なので、経営の成果が株価を通じて自身の資産価値に直結します。

②「同族企業」のデメリット

放漫経営になるリスクがある

経営者や親族の私的な支出を経費で賄ったり、親族の役員や従業員を過度に優遇したりと、会社の私物化を進めるおそれがあります。また、株主からの監視機能が働かず、ワンマン経営になりやすくなります。その結果、ガバナンスが弱くなり、健全な経営を阻害してしまう可能性があります。

能力のある人材を経営者や役員に登用する道を狭めてしまうリスクがある

後継者候補が限定されてしまううえに、能力不足の親族が経営陣になるおそれもあります。また、同族か否かで恣意的な評価をしてしまうと人事考課が不透明になり、従業員のモチベーションを低下させる可能性があります。同族以外の者が役員になりにくくなることも同様の結果をもたらします。

親族間の争いが経営に悪影響を及ぼしてしまうリスクがある

後継者候補の親族が、親子間の不仲や対立があると事業承継が円滑にいかなくなる可能性があります。また、後継者指名をめぐる親族間の争いが起きることもあります。相続などをめぐって同族間の争いが起こることもありえます。

経営革新がしにくくなるリスクがある

創業者一族の考え方にこだわりすぎたり、経営陣が長期間変わらなかったりして、安定志向、保守的になりがちです。外部の環境変化に対して迅速な対応がしにくくなる可能性があります。

③「同族企業」を成功させるためのポイント

ガバナンス体制の確立

株主や役員が親族で占められるため、組織の統制が甘くなりがちです。経営陣が自分を律し、ガバナンス意識を高めることが必要です。具体的には、企業の経営や財務などの管理体制をしっかり整えること、公私混同をしないことなどです。

親族でない従業員も大切にする

経営陣が親族で占められるからといって、過度に身内びいきをしてはいけません。親族以外の従業員も大事にする必要があります。具体的には次のようなことです。

ⓐ従業員の意見はあまねく聞くように努めること
ⓑ透明性の高い評価制度を作ること
ⓒ親族に適切な後継者がいない場合は従業員や外部からの登用も検討すること

同族企業にはあまりよくないイメージをもたれる傾向もありますが、メリットを生かすことで企業の維持・発展は十分に望めます。経営者自身が自らを引き締め、内部統制をしっかり行い、親族以外の従業員も含めて全社一丸となれるかどうかが重要と言えます。