「余力管理」について知ろう

~製造業以外の業種にも応用できる~

工場では、受注した数量を納期に間に合うよう生産しなければなりません。そのためには、作業者に計画通りに作業をするように指示し、実行させること、つまり管理が必要です。そのひとつに「余力管理」があります。

①「余力管理」とは

「余力管理」とは、JIS「日本産業規格」で、次の通り定義されています。

各工程又は個々の作業者について,現在の負荷状態と現有能力とを把握し,現在どれだけの余力又は不足があるかを検討し,作業の再配分を行って能力と負荷を均衡させる活動。 備考 余力とは能力と負荷との差である。工数管理ともいう。」(JIS Z 8142-4102)

㋐「能力=負荷」の状態
作業負荷が作業能力に等しい状態であり、もっとも望ましく、目標となる状態です。

㋑「能力<負荷」の状態
作業能力以上の作業負荷がかかった状態です。作業に遅延が発生します。

【例】・設備の処理能力が低くて、その設備を使う工程の作業に時間がかかりすぎる
   ・ある工程に必要な員数の作業者を確保できていない
【対策】作業順序の入替などの見直し、残業対応などにより、能力を向上させる

㋒「能力>負荷」の状態
作業負荷が少なくて作業能力に余裕が生じている状態です。作業に手待ちが発生します。

【例】・流れ作業で、前工程の作業に遅れが生じているため、必要数の部材がそろわない
    ・生産計画が大雑把で実際の作業能力と乖離がある
【対策】人員配置の見直し、作業計画変更などにより、能力の分配を適正化する

②「余力管理」は製造業限定ではない

「余力管理」は製造業以外の業種にも応用できます。

㋐「ヒト」の場面
・小売業やサービス業などで、来客数の多寡に応じて曜日や時間帯によって配置する人員を増減させるケースです。顧客対応しきれなかったり人員が手待ち状態になったりしている時間を出来る限り少なくします。パート・アルバイトの活用のほか、シフトの工夫などが考えられます。
・商品陳列作業や包装・発送作業、清掃作業など諸作業手順の見直しにより効率化や適正化を図るケースです。また、昼食時間帯の飲食店の入店待ちやコンビニエンスストアなどのレジ待ちを減らすための顧客動線のコントロールも考えられます。

㋑「モノ」の場面
・飲食店で自家製にこだわらない商品は外注化して売れ筋商品の作業に時間や労力をより多くかけられるようにするケースです。
・IT業では、プロジェクトの生産能力と負荷(作業量)の差を把握し、両者を調整してスケジュールを最適化するケースです。プロジェクトの進捗を加速することができます。

㋒「カネ」の場面
一方、「カネ」の場面では、「能力=負荷」の状態ではなく、「能力>負荷」の状態が適正となります。不要不急な支出を減らして手許資金の余力を保つこと、不要不急な借入をせずに必要時に借入できる余力を残しておくことです。言い換えると、いつでも必要な支出(負荷)に対応できる支払能力(手許の現金預金または借入できる能力)をもつということです。

③的確な余力管理」を行うために

生産管理や販売管理、その他の管理をするために、まずは適正な計画をたてることが必要です。これまでの経験値から予測して計画することになりますが、うまく管理が実行できたら次回の予測精度を高めることにつながります。

また、「余力管理」の実行場面で改善や効率化などにより能力を高められる場合もあります。目の前の作業をきちんとやりとげるのみならず、組織の成長にも結びつけられれば理想的といえます。

自動車のフットブレーキには少し遊びがあります。遊びがないと少し踏んだだけでブレーキがかかってしまい危険なためです。「余力管理」も理論的には能力と負荷の均衡状態が理想ですが、実務的には少しだけ能力が上回る状態のほうがよいのかもしれません。