事業承継ガイドラインとは

~円滑な事業承継のための手引書~

日本政策金融公庫総合研究所の調査(2020年)によると、経営者の半数以上が廃業を予定しています。
その3割弱が後継者難だそうです。
また、廃業予定企業の約3割が業績良好で、約4割が今後10年間は現状維持可能としています。
後継者さえいれば存続できる企業が少なくないのです。

中小企業白書(2021年)では、事業承継は企業のさらなる成長や発展の機会ととらえています。
経営者交代した企業はしない企業と比べて成長率が高く、しかも事業承継者が若いほど成長率は高まるというのです。

政府は、全国の起業数の99%を占める中小企業の後継者問題を解決すべく、「事業承継ガイドライン」を策定しています。
2022年3月に改訂されました。
概要を以下に示しましょう。

1 事業承継の類型

親族内承継
従業員承継
社外への引継ぎ(M&A)=株式譲渡や事業譲渡等により社外の第三者が引継ぐ

3つの類型のうち、近年は①が減少し、②と③が増加傾向にあるといいます。

2 事業承継に向けたステップ

ガイドラインでは、5つのステップによって事業承継を進めることを提示しています。

ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識

後継者教育等の準備期間を考慮し、経営者がおおむね60歳に達したころに準備に取りかかることが望ましいです。

ステップ2:経営状況・経営課題等の把握(見える化)

経営状況や経営課題、経営資源等の現状を正確に把握することから始めます
身近な士業等専門家や金融機関等の協力を求めるとより効率的に取組めます。

・自社の経営状況は関係者へ開示できるよう、評価基準を標準化する必要があります。
・後継者候補の有無、候補者の適任性、親族や取引先への対策、相続対策などの事業承継課題を抽出します。

ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)

現経営者は経営改善に努め、よりよい状態で引き継ぐ姿勢をもちます

・本業の競争力を強化すべく、強みをつくり、弱みを改善する取組みをします。
・経営体制を総点検します。
・経営者は財務状況を的確に把握し、金融機関、取引先等に説明できるようにします。
・業績が悪化しているなら、早期に事業再生に着手します。

ステップ4:事業承継計画の策定

ⅰ) 親族内・従業員承継の場合

まず、自社の現状とリスクなどをもとに中長期的な方向性・目標を設定します。
その目標を踏まえて事業承継計画を策定します。

具体的なプロセスは以下の通りです。

ア)自社の現状分析
イ)今後の環境変化の予測と対応策・課題の検討
ウ)事業承継の時期等を盛り込んだ事業の方向性の検討
エ)具体的な目標の設定
オ)円滑な事業承継に向けた課題の整理

計画策定にあたって重要なことがあります。
後継者や親族、金融機関、取引先等の関係者と内容を共有することと、企業理念や現経営者の想いを後継者と共有することです。

ⅱ) M&Aの工程の実施(社外への引継ぎの場合)

M&Aの工程に移行します。
詳しくは中小企業庁「中小M&Aガイドライン」(2020 年3月)を参照してください。

ア)意思決定(M&Aを実行すべきかどうか)
イ)仲介者・FA(フィナンシャル・アドバイザー)の選定
ウ)バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
エ)譲受側の選定(マッチング)
オ)交渉
カ)基本合意の締結
キ)デュー・ディリジェンス(DD)
ク)最終契約の締結
ケ)クロージング

ステップ5:事業承継・M&Aの実行

実行段階では、状況の変化等を踏まえて随時事業承継計画を修正・ブラッシュアップする意識も必要です。

中小企業の事業承継支援体制も充実しています。

・商工会議所・商工会の経営指導員、金融機関等の身近な支援機関
・税理士・弁護士・公認会計士等の士業等専門家
・事業承継・引継ぎ支援センター等の公的・専門的な支援機関

こうした支援機関の協力を得ることにより、スムースな事業承継を実行できるでしょう。

また、潜在的な事業承継ニーズの掘り起こしのために、「事業承継診断」という取組みが行われています。
金融機関の営業担当者や商工会・商工会議所等の担当者が顧客企業等を訪問して実施します。
診断票にもとづいた対話を通して、経営者に対して事業承継に向けた準備のきっかけを提供するものです。
所要10分程度でできるようになっています。

診断書の項目は次の通りです。

Q1 会社の10年後の夢について語り合える後継者候補がいますか。
Q2 候補者本人に対して、会社を託す意思があることを明確に伝えましたか。
Q3 候補者に対する経営者教育や、人脈・技術などの引継ぎ等、具体的な準備を進めていますか。
Q4 役員や従業員、取引先など関係者の理解や協力が得られるよう取組んでいますか。
Q5 事業承継に向けた準備(財務、税務、人事等の総点検)に取りかかっていますか。
Q6 事業承継の準備を相談する先がありますか。
Q7 親族内や役員・従業員等の中で後継者候補にしたい人材はいますか。
Q8 事業承継を行うためには、候補者を説得し、合意を得た後、後継者教育や引継ぎなどを行う準備期間が必要ですが、その時間を十分にとることができますか。
Q9 未だに後継者に承継の打診をしていない理由が明確ですか。(後継者がまだ若すぎる など)
Q10 事業を売却や譲渡などによって引継ぐ相手先の候補はありますか。
Q11 事業の売却や譲渡などについて、相談する専門家はいますか。それは誰ですか。実際に相談を行っていますか。

事業承継できないという理由だけで廃業せざるをえない企業が減ることを期待しています。
地域の経済や雇用の担い手として中小企業の役割はきわめて重要だからです。