取扱商品や取引先の分散でリスクを回避

~一点集中を避けてアクシデントに備える~

「選択と集中」により、得意とする事業分野に経営資源を集中投下するとうい考え方があります。
多角化経営で「虻蜂取らず」にならないようにという意味です。
とはいえ、過度な集中はかえってリスクを呼び込んでしまうことがあります。
主力商品が需要の低下や代替品の登場により売れなくなってしまった。
大口の販売先が倒産して売上が激減してしまった。
そういった危機に直面して途方に暮れたという経験のある企業は少なくないでしょう。

「卵は一つのカゴに盛るな」という資産運用の格言があります。

卵を一つのカゴに盛った場合、カゴを落としたら全部の卵が割れてしまうかもしれません。
しかし、複数のカゴに分ければ、一つのカゴを落としてその中の卵が割れてしまったとしても、他のカゴの卵は割れずにすみます。
つまり、投資は特定の商品だけにするのではなく、複数の商品に投資してリスクを分散させたほうがよいという意味です。

ここでは、①取扱商品・サービス、②取引先、③取引金融機関について、集中か分散かの観点から解説していきます。

取扱商品・サービス

以前、吉野家は牛丼一筋で、米国産の牛肉の特定部位しか使わないというこだわりがありました。
そのため、BSE(牛海綿状脳症)により米国からの輸入がストップしたとき、店で売るものがなくなるという危機に陥りました。
急遽、豚丼など商品の多角化に取り組み、何とか乗り越えたことは記憶に新しいところです。

また、伝統工芸品は、生活様式の変化や海外からの安い類似商品の流入などにより売上が大きく落ち込んだという話題も耳にします。
逆境を克服した企業は、新商品の開発や、新たな使いみちの開拓、既存技術を活用して別分野へ転向といった取り組みをしています。

つまり商品・サービスの多角化によって危機を脱しているのです。
将来、一つの商品が売れなくなったとしても別の商品を売ることができれば売上がゼロになるリスクは低くなります。

なお、一点集中戦略がよくないというわけではありません。
需要変化や競合状況などに常にアンテナを張っておき、柔軟に対応できる態勢をとれることが大事なのです。

取引先

建設業や製造業などで専属下請となっているなど、一社に依存していることは安定受注が得られるメリットがあると言われます。
しかし、万が一販売先が倒産したら売上がゼロになってしまいます。
仕入先も同様で、一社からしか仕入れていなければ売る商品がゼロになってしまいます。

取引先が複数あると、コストが多くかかったり接点が多くなって仕事が面倒になったりといったデメリットはたしかにあります。

しかし、取引先を多く確保しておくこと以外にもメリットがあるのです。
たとえば、取引先を競わせることにより販売や仕入れの価格を抑えられる可能性があります。
一社専属だと価格交渉は難しいものです。

また、一社専属だとルーチンワークをこなすだけになりかねず環境変化に合わせる努力を怠るようになるかもしれません。

さらに、取引先が複数だと企業の成長も促進されます。
新規取引先開拓のために新商品開発を進めたり、コストダウンを試みたり、営業戦略をブラッシュアップさせたりといったことです。

取引金融機関

取引金融機関についても、メインバンクのほかに複数機関とふだんから取引しておくべきです。

メインバンクから融資を断られた場合、資金調達が困難になってしまうという事態が生じかねません。
融資枠がいっぱいになることも考えられます。
取引のない金融機関に急にお願いしても、これまでの信用がないのですぐに応じてくれるとは限りません。
審査に時間がかかったり、業績が悪くなってメインバンクから断られてきたのではないかと詮索されたりします。

複数機関と取引があれば次のようなメリットが考えられます。

ⅰ) 一つの金融機関で融資を断られても別の金融機関から借りられる可能性がある

ⅱ) 金利などで他機関との比較をすることや競争させることにより自社の金融機関に対する交渉力を高められる可能性がある

ⅲ) 取引金融機関の破綻に備えられる

①~③のいずれも、新規開拓が伴うので一朝一夕でできるものではありません。
ふだんから自社の強みを磨き上げ、取引先や金融機関から選んでもらえるメリットを提供できる企業であることが何よりも肝要なのです。
中小企業診断士や商工会議所・商工会の経営指導員などに相談し、経営基盤の強化に取り組むことをおすすめします。