営業秘密の漏えい防止対策

~全社的な意識づけと事前の万全の備えがカギ~

近年、企業の秘密情報を同業他社や海外企業に不正に持ち出した事例についての報道が目につくようになりました。

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)は「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020」をプレス発表しています。それによると、営業秘密の漏えいルートは、「中途退職者による漏えい」が36.3%と最多で前回(28.6%)より増加しています。次いで「現職従業員等の誤操作・誤認等による漏えい」が21.2%(前回43.8%)となっています。

営業秘密とは

具体例は次の通りです。

・顧客名簿や新規事業計画、価格情報、対応マニュアルなどの営業情報
・製造方法・ノウハウ、新規物質情報、設計図面などの技術情報

不正競争防止法では、企業の秘密情報が不正に持ち出されたなどの場合に、民事上・刑事上の措置をとることができるとされています。そして、その秘密情報は、不正競争防止法上の「営業秘密」として管理されていることが必要です。次の3つの要件があります。

秘密管理性:秘密として管理されていること

営業秘密保有企業の秘密管理意思が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保されていること

有用性:有用な営業上又は技術上の情報であること

当該情報自体が客観的に事業活動に利用されていたり、利用されることによって経費の節約、経営効率の改善等に役立ったりするものであること

非公知性:公然と知られていないこと

保有者の管理下以外では一般に入手できないこと

漏えい防止対策

営業秘密を漏えいさせないためには、あらかじめ対策を講じておくことが重要です。その方法は次の通りです。

営業秘密を分別し確定させる

企業にはさまざまな情報があふれていますので、何が営業秘密に当たるのかを、ほかの情報と明確に区別することが第一歩です。判断基準は、外部に漏れたら困るかどうかです。

管理方法を確立する

不正競争防止法の要件も意識しながら、しっかり管理できる態勢を構築します。

ⓐ営業秘密にかかる書類等には「㊙マーク」を記す

ⓑ保管場所を決め、施錠するなどして、だれでも接触できる状態にしないようにする

ⓒ電子データになっているものは、パスワードを設定するなどして、アクセスを制限する

ⓓUSBなどの記録媒体や、スマホなどカメラ機能のある機器などを業務室に持込むことを禁止する

ⓔ営業秘密を外部へ持ち出すときのルール、複製するときのルール、廃棄するときのルールを定める。たとえば、上司の事前承認を得たりチェックと受けたりするなど

ⓕ外部へのメール送信やFAX送信の際のルールを定める。たとえば、他者のチェックを受けるようにしたり、送信できる情報に制限を設けたりするなど

ⓖ整理整頓の徹底。営業秘密か否かにかかわらず、書類や電子データは整理整頓してきちんと管理し、紛失や誤廃棄などのリスクを低減させる

ⓗ以上の管理方法をマニュアル化して、社内で共有できるようにする。それにより、社内の全員が理解を深め、意識を高める効果が見込める

従業員を管理する

前述のIPAの調査の通り、従業員の故意または過失による漏えいが多数を占めることから、従業員への直接的な働きかけが必要です。

ⓐ漏えい防止にかかる従業員教育や研修を定期的に実施する。マニュアルを作成した場合はその理解を進める。他社の漏えい事例やその悪影響などを提示して漏えい防止の重要性を認識させる。また、SNSで安易に情報発信しないよう意識づけを行う

ⓑ秘密保持契約書または誓約書を従業員に提出させる

ⓒ漏えい防止について、就業規則等に規定化し、罰則を定める

ⓓ従業員が不正をしないようふだんの管理を強化する。具体的には、従業員への目配りやメンタルケア、職場環境の整備、透明かつ公平な人事評価制度の構築など。

取引先と秘密保持契約

取引内容や必要性に応じて、取引先と秘密保持契約を取り交わすことが大事です。

いったん営業秘密が漏えいしてしまうと、企業が多大な損害を被る可能性があるほか、事後処理もたいへんになってしまいます。あらかじめ防止策を策定し、ふだんから徹底することで、漏えいを起こさないことが何よりも重要なのです。