知らないと損? 債務超過が融資審査に及ぼす影響
~表面ではなく実態の「実質自己資本」で判断する~
融資を受けたかったが、自社は「債務超過」なので厳しいと金融機関に言われた。
そんな経験のある方は少なくないでしょう。
2019年度「中小企業白書」によれば、中小企業の実に3分の1が「債務超過」、つまり「自己資本」がマイナスとなっています。
債務超過の大きい企業ほどデフォルト(※)率が高い傾向にあると指摘されています。
「自己資本」はプラスの方が望ましいのです。
(※)実質破綻、破綻、代位弁済のいずれかに該当すること
「自己資本」とは何を指しているのでしょうか?
決算書の「貸借対照表」の左側は「資産」、つまり企業がどのような財産をいくら保有しているかを表します。
その財産をどうやって調達したのかが右側に示されます。
他から借りた「負債」と自社側で調達した分である「自己資本」とに分けられます。
つまり、自己資本=資産-負債となります。
厳密に言うと違うとされる場合もありますが、「自己資本」は「純資産」と同義とされるのが一般的です。
金融機関の融資審査でも「自己資本」は重要視されます。
ただし、表面上の数値ではなく、修正を加えた「実質自己資本」がプラスかマイナスか、その比率はどれくらいかで見ています。
どのような修正をしているのでしょうか。
【「資産」の修正】
①「現金・預金」
実際に存在する金額かどうかです。
まれにありもしない多額の現金を計上する、いわゆる粉飾をする企業があります。
実在しない分は差引きます。
②「受取手形」「売掛金」
取引先の経営不振や倒産などで回収が見込めないものや困難と判断されるものがあればその分は差引きます。
③「棚卸資産」
売れる見込みのない不良在庫などがあればその分は差引きます。
④「土地」「建物」などの固定資産
地価が下がったとか減価償却をしていないとかで簿価と時価とに乖離がある場合、その差額を修正します。
地価が上がっている場合などはプラスになることもあります。
⑤その他雑勘定
「貸付金」「仮払金」「前渡金」などです。
資産としての価値がないもの、たとえば返済が見込めない貸付金などはその分を差引きます。
【「負債」の修正】
①役員借入金や親族などあての借入金
実質的に返済する必要がないケースが多く、その分をプラスに、つまり役員借入金などが負債にはないことにします。
役員などが企業に貸しているのではなく出資していると見て、「資本金」と同じ趣旨と解釈するのです。
金融機関はどのようにして「資産」として認められないものを見抜くのでしょうか。
経営者へのヒアリングのほか、「経営指標」を見て同業種平均値と比較して異常値でないか確認します。
たとえば、棚卸資産などは業種によって適正な数値がまちまちです。
同業種平均値がわかれば異常値の発見はたやすいことなのです。
もう一つは、その企業の取引状況から有高を推測して決算書の数値と見比べます。
たとえば、販売先からの売掛金回収条件が月末締め翌月末払いのケースでは、推測される売掛金の有高は売上高の1カ月分となります。
売上高が毎月一定と仮定した場合、もし2カ月分あれば期限までに回収できていない売掛金があるのではないかと考えるのです。
もし、前月の売上が1カ月の平均売上高の2倍だったのであれば異常値ではないと判断します。
「実質自己資本」の算出方法についてお分かりいただけたでしょうか。
修正したからといって必ずしも粉飾を疑い決算書の信憑性がないと判断されるわけではありません。
とはいえ、実態に合わせた数値を決算書に計上できれば理想的と言えます。
金融機関の見方を理解し、顧問税理士にも協力してもらい、自社の決算書の「実質自己資本」を把握しておくことをおすすめします。