「舞いあがれ!」にみた町工場の廃業危機と立ち直り

~自社の強みとチーム力が町工場を救った~

NHK朝の連続テレビ小説「舞いあがれ!」では、主人公岩倉舞(福原遥)の両親は東大阪のネジ製造工場IWAKURAを営んでいます。

社長である父岩倉浩太(高橋克典)は、工場を拡張し業績を順調に伸ばしていました。
しかし、リーマンショックのために急激に発注が減少。
多額の借入金のうえに、起死回生の受注を見込んで製造を始めたネジが結局受注に至らず大量の不良在庫となってしまいます。

途方に暮れているときに浩太が心筋梗塞で急死。
母岩倉めぐみ(永作博美)は、一度は廃業を決意します。
しかし、浩太や従業員の工場への熱い想いをくみ取り、めぐみは後を継いで工場の立て直しに取り組みます。

「母と私の挑戦」(2023年1月16日~20日放送)では、社長となった母を舞が支援しようとします。
せっかくの航空会社の内定を辞退し、正式に社員となり新規受注獲得に奔走するのです。

めぐみは、社員が苦し紛れに取った受注の採算が合わないことを発見し、受注先へ値上げ交渉にのぞみます。
ところが、「やっぱり主婦が家計見直すみたいなことしかできはれへんのやねぇ」と嫌味を言われます。

めぐみはひるみません。

「主婦が家庭守るように、社長は会社守らなあきません。
材料費が高騰している今、この値段のまま取引してたら会社を危険にさらすことになります。

あと3カ月、今のままやらしてもらいます。
その間に4円50銭より安う作れる会社、お探しになれたら、そちらに頼んでいただいて結構です。
…けど、そんな会社ありますやろか?

もちろん、一方的に値上げをお願いするつもりはありません。
今後御社から新しいご依頼を頂いた際には、設計段階でコスト的にメリットのある提案を、プラスアルファでさしてもらいます。

新しい価格は、弊社の職人たちが持つ高い技術への正当な対価やと…思ております。」

相手は絶句し値上げに応じざるを得なくなりました。

一方、舞は、かつての取引先を一軒一軒あたります。
ただ頭を下げるだけではだめだと気付き、先輩社員からの講習や独学でネジの知識や自社の技術力を勉強しはじめます。
他社ではできないネジを製造できることをきちんと説明できるようになり、ようやく新規受注を得ることができるようになりました。

1 取引先に必要な存在と認識させる

めぐみと舞の成功要因を分析してみましょう。

決してドブ板営業が功を奏したのではありません。
相手先にとってIWAKURAが必要な取引先だと認識させたことが勝因です。

ではどうしてそのように認識させることができたのでしょうか?

2 「強み」で差別化できてい

それは、IWAKURAの「強み」が取引先にとって魅力的に映ったことです。
特殊加工のできる機械設備をそろえ、能力の高い従業員に裏付けられた高い技術力をもち、短納期にも対応できる。
同業他社との差別化がきちんとなされているからこそ注目してもらえるのです。

そのため、多少単価が高くなっても、取引先は他社に頼むことができず、IWAKURAしかないと認識せざるを得ないのです。
IWAKURAはしっかりと利益を確保することができます。

品質の維持はもちろん、設備のさらなる充実や優秀な従業員の確保にもつなげられます
いっそうの信頼を獲得し、新たな受注へと好循環を生むのです。

3 「チーム力」が高い

もう一つ、従業員のチーム力がIWAKURAの支えとなっています
従業員一人ひとりが一生懸命で、能力の高低にかかわらずそれぞれの個性を発揮して一丸となって課題に取り組みます。
成功したときは全員で喜びます。

「舞いあがれ!」では、ほかの場面でもチーム力が描かれています。
舞が学生時代のサークル「なにわバードマン」で協力して人力飛行機を飛ばしたこと。
航空学校でパイロットを目指して班の仲間と助け合って厳しい課程を乗り越えたこと。
ちなみに舞は「岩倉学生はチームワークを大切にする」と教官の引継ぎノートに記されました。

「舞いあがれ!」は企業経営の面からみて示唆に富むドラマです。